『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』 増田俊也

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也(新潮社)、読了。

 乱暴であるのを承知でいえば、木村は力道山を殺すべきではなかったのか。たとえどんな犠牲を払ってでも。( 26 頁)

木村政彦という柔道家の無双の強さと人間的な魅力、そして後半生の苦しみが痛いほどに伝わってくる本だった。終盤は、胸が張り裂けそうな思いとともに読みすすんだ。やるせない。

 戦中は不敗の柔道王として、やはり連勝を重ねていた双葉山とともに皇軍進撃の宣揚に利用され、また師匠牛島辰熊の東条英機暗殺に使われそうになるなど、常に思想を持った側に利用されてきた木村は、戦争が終わったこのときになっても “時差” をもって戦争の続くブラジルで利用されることになるのだ。もっとも、本人は思想もなく生きているので、利用されていることには気づいていない。( 345 頁)

ところで、『空手バカ一代』や『男の星座』などでしめされる梶原一騎のあの虚を実と混ぜ合わせて差し出す語りについて、この本で著者はやや否定的に言及している。しかし、この本の語りもまた、ところどころで梶原のそれと似ていってしまう。虚をなくし実で満たすだけでは梶原の語り方は超えられないのではないか。「真実」の分量がちがうだけで、真実への態度はおなじだから。というようなことも考えてしまった。

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